Earth Day 2023 MakeEverydayEarth Day
Interview with 仁平透 (pejite)
無垢材でできた古い家具には、使うたび変化する、喜びがある
原体験は、幼少期にまで遡ります。僕が小学生だったのは1980年代。当時クラスメートたちの間では、アニメのフィギュアやレーシングカーのおもちゃが流行っていました。でも僕が興味を持っていたのは道端に落ちているものです。例えば、道路に置かれたレザー張りの自転車のサドルとか、古くなったミシンとか。ノスタルジーを感じるものやクラシカルなデザインのものになんとなく惹かれていたんですよね。見つけて持ち帰ってきては母に、「またそんなもの拾ってきて……」と呆れられていました(笑)。家庭があまり裕福ではなく、流行りのおもちゃをねだることができなかったのも一因ではありますが、古くて味のあるものに自然と価値を見出していたんだと思います。
中学生になると、ファッションや音楽などのカルチャーが好きになりました。でもその時追い求めたのも、やっぱり古いもの。ビートルズなどの60年代のロックやリーバイスのヴィンテージジーンズなど、同級生たちの間で流行っているものとは全く違うものを好んでいました。今振り返ればかなりひねくれた子供でしたね(笑)。レコード好きが高じて、高校卒業後は上京し、渋谷の中古レコードショップに就職しました。家庭の事情で故郷である益子の隣町に帰るまでの5年ほどの間は、毎日楽しくて仕方なかったことを覚えています。
古いものが好きだった流れで、働き始めたくらいの頃から自然と集めるようになったと記憶しています。といっても、東京の目黒通りに並ぶようなアンティークショップの、ミッドセンチュリーの家具は高価すぎて買えない。それに華やかな雰囲気のものより、佇まいが美しく枯れた印象のものが好きだったんです。それで夢中になったのが日本の古い家具でした。リサイクルショップで掘り出すこともありましたし、特に地元に帰ってからは近所から貰えることも多かったんです。当時は、今ほど価値があるものとされていなかったので、店じまいをしようとする方が「もう使わないから」と椅子を安価で売ってくれたり、今では10万円くらいの値がつくような立派なガラスケースも、「処分するのにもお金がかかるし、持っていっていいよ」と譲ってくれたり。そうやって手にしたものを庭で洗って、素人ながらも自分なりに補修したり塗り直したりしていましたね。
プラスチックケースや合板のカラーボックスなど、大量生産されたものに親しんで育ってきたからか、無垢の板で作られた家具の、オイルを塗って手入れすると質感が変わったり、傷が次第に味になっていったりするところがすごく新鮮だったんです。しかも造りがいいので長持ちもする。高価なアンティーク品でなくても、古いものと暮らすことって楽しいなと感じたのを覚えています。さらに、古いものには特有の温もりがあるので、部屋に取り入れるだけで空間がどことなく味わい深くなる。その感覚に心を掴まれました。2009年にオープンした〈仁平古家具店〉は、まさに自分が最初に感じた古家具の面白さをより多くのお客さんに伝えたいとの思いから始めた店です。質の良いものを集めながらも価格はできるだけ抑え、極力気軽に取り入れてもらえるようにと意識しました。
もちろん〈仁平古家具店〉を通じて提案している思いは変わらない一方、この仕事を続けていると時折、なかなかお目にかかれないような、造りが抜群に良くて佇まいが美しい、“スペシャルな家具”と出会うこともあるんです。気軽に取り入れられる家具もいいけれど、特別な家具にはやっぱり特有の引力がある。より幅広い古家具の表情を伝えられればとの思いから、〈仁平古家具店〉とは名前や見せ方も変え、スペシャルなものだけを提案するショップとして〈pejite〉を始めました。
取り壊し寸前だった古い家が、家族の愛すべき居場所になるまで
僕は不動産情報サイトを見るのが趣味で、毎晩寝る前に新着情報を眺めるのが日課になっています(笑)。その中で見つけたのがこの600坪の土地です。もともと、益子を拠点に民藝運動を主導した陶芸家・濱田庄司さんの三男で、同じく陶芸家の濱田篤哉さんが住んでいた場所で、母屋と陶芸の窯がある公房棟の2棟が立っていました。築年数は40数年と、古民家というほど古くもないのですが、20年ほど空き家になっていたため特に母屋の方は荒れ放題。不動産屋さんも「母屋は使えない」と前置きするほどでした。それでも心惹かれたのは、ロケーションの美しさがあったからです。メインの通りから1本入った道の先にある奥まった雰囲気も素敵だし、見渡す限り木々に囲まれていて電柱一本すら見えないところにぐっときました。もともと静かなところに暮らしたいとの思いを持っていた妻の希望も叶えられるし、何より面白い場所だから、「母屋はもしうまく直せたら家にして、ダメだったら工房の建物だけ何かに使えたらいいな」くらいの軽い気持ちで買ったのがきっかけでした。手始めに母屋を一旦スケルトンにしたところ、躯体が思いのほかしっかりしていて、これはうまく改修できそうだなとの手応えを感じて。地元の職人さんに依頼してリノベーションを進めることにしました。
せっかく気持ちの良い自然が目の前に広がっているので、リビングとダイニングは、もともとあっと天井や仕切りをぶち抜き、梁や柱を剥き出しにして、大きなひと続きの開放的な空間にしました。そして常に念頭においていたのは、自分たちが好きな古い家具と同じように、使い込んでいくごとに味が出る空間に仕上げること。例えば、床と天井に用いたのは杉材です。時を経ると枯れた感じの良い風合いが出てくるところが好きで、家具や建具との相性も良くなるだろうなと選びました。また壁も、自分たちの好きな土壁とモルタル壁に塗り直した。もとの家の造りや良い部分は生かしながら、足りないところや自分たちの暮らしに合わない部分を補っていくという考え方で、長く住み続けていける場所を目指しました。
良いところを伸ばし、足りないところを補うという感覚は、家具のリペアも同じです。家具であれ家であれ、古いものを直すことって、美容師のようだなと思う瞬間もあって。「その人の輪郭はこうだから、この髪型が似合うんじゃないか」「こういうファッションだからこの髪型が似合うんじゃないか」とその人の特性を見極めて進めていく仕事ですよね。僕らも同様に、素材の“声”を聞くことは大切にしています。
1人で使い継いでいくもよし誰かに手渡し、循環させるもよし
素材を無駄なく使うことも、ある意味ではロングライフと言えるかなと。家具をリペア、メンテナンスするのが仕事なので、僕たちの工場では、どうしても毎日廃材が山のように出てしまいます。ただ、それを捨ててしまってはもったいないので、できるだけ別の家具作りに生かしたり、器に加工したりしていて。そして最後の最後に余った素材は、冬まで保管しておいて燃料に。素材が持てる命を、できる限り長きにわたって活用するのは心がけていることです。
長く使い続けることで、風合いや質感の微妙な変化を楽しむことができるのが、やっぱり大きな魅力だと思います。でもそれに留まらず、質の良いものを直して使っていれば、自分の手を離れても循環させていくことができるんです。生活環境や心境の変化など、様々な理由でものを手放さなければいけない局面もあります。大量生産品であれば捨てるしか道がない一方で、直して使い継いでいけるものならば、誰かの手に渡っても生き永らえることができる。次の持ち主、あるいは次の世代へと受け渡すことができることもまた、醍醐味の一つなのではないでしょうか。
Repair Service 大切なものをより永く
大切なモノをより長く使い続けるためのリペアサービス
ザ・ノース・フェイスはブランド設立当初より、プロダクトのリペアサービスを実施しています。ご購入いただいた製品をご使用いただく中で、破損や機能が失われた場合に、独自のリペアセンターにて修理することが可能です。一つのプロダクトに愛着を持ち、より永くご使用いただくためのサービスです。