2013年からはじまったアムステルダムに拠点を置くミュージックフェスティバル。バルセロナやサンパウロ、テルアビブ(イスラエル)、サンティアゴ(チリ)、バンガロール(インド)など世界中でイベントを開催すると同時に、地域の廃棄食材を使用したミートフリーフードコートや、参加者のモビリティまでも含めた全エネルギー消費の最適化といった革新的なサステナビリティに関する施策を実践している。2020年には100%循環型のフェスティバル環境を実現させた。また、市政と協力関係を結び、都市開発や最新テクノロジーの仮想実験場としても機能している。
DGTL Festivalにおけるサステナブルな取り組みの企画・実装を担う
Revolution Foundationに所属。役職はsustainability coordinator。
世界初の完全に循環するエレクトリック音楽フェスティバルを実現したDGTL Amsterdam。イベント産業がその構造をアップデートし続けている中で、彼らはサーキュラリティの領域において近年目覚ましい躍進を遂げ、イノベーションとサステナビリティのパイオニアとして、音楽フェスティバルと都市の双方に対して、循環するフットプリントを生み出した。
彼らの循環可能な取り組みと再生産的なビジョンは、私たちが自然との関係性を再構築する上で、様々な示唆をもたらしてくれるであろう。
DGTL Festivalの
成り立ちについて
お聞かせください。
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友人だった2人が何年も前に始めた小さなパーティーから、現在では世界中でイベントを主催するApenkooi Eventsがすぐさま誕生しました。アムステルダムに拠点を置くApenkooi EventsはDGTLの創始者です。彼らは音楽、クリエイティビティ、そしてサステナビリティに強いフォーカスを置いたイベントを運営することで知られています。
そして、2013年から始まったDGTLは、参加者に世界中の最先端のエレクトロニックミュージックを体感してもらうという揺るぎない使命を掲げ、そのためにアートや音楽のフィールドにおいて、新進気鋭のアーティストからベテランまで包括的なラインナップを作り上げるとともに、彼らに世界規模でのステージを提供し続けています。
DGTLはアムステルダムから始まりましたが、現在ではチリのサンティアゴやサンパウロ、インドのバンガロールやバルセロナ、ドバイのテルアビブからマドリードまで、世界各地で開催されています。
DGTLはどのように
世界初の100%循環する
音楽フェスティバルの実現に
取り組んできたのでしょうか?
DGTLがスタートした当初から、私たちは環境への影響に対して高い関心を寄せています。我々は地球上の社会や環境に与える影響を改善、メンテナンスする義務があると感じており、これまでよりも少しでも良い世界を残すことに専念しています。こうした理由から、常にエネルギーの排出量を着実に減らすための革新的な方法をリサーチ、導入し、世界初の循環型フェスティバルを実現させるための道を切り開いてきました。
現在、経済は絶え間ない経済成長が主要な原動力となる線形システムに基づいて形成されています。つまり、私たちは製品が製造・使用された後、それらのライフサイクルが廃棄される「使い捨て」社会に生きているのです。しかしながら、私たちは「廃棄物」というものは存在しないと信じており、循環システムを用いた、サーキュラー・フェスティバルへの移行を実現するために尽力しています。この循環を達成するために、全ての廃棄物が価値をもつ資源へと変換する新しい方法を導入しています。
その結果として、フェスティバルにおける素材と廃棄物のフローの図式化、廃棄物管理から資源管理への移行、次回以降の開催における環境負荷が高いポイントへ優先順位を付けることから着手しました。(*1)このデータを用いることで、循環可能な状態を実現するために、フェスティバルがどこに注力するべきなのかという幾つかの重要な問題に対して、答えを導き出せるようになったのです。
(*1)この手法はMaterial Flow Analysis(MFA)としてチャート化されています。
廃棄予定の素材を用いたフードコートや
フェス全体で消費されたエネルギー、
廃棄物の数値化など、様々な取り組みを
実施していますが、その中で最も
チャレンジングだったことについて
お聞かせください。
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私たちは新しい挑戦をしており、音楽業界にまだ導入されていないものを実装したいと考えています。結果として、多くのチャレンジングな障害に遭遇しますが、そういった困難を避けようとはしません。実際には、それらを喜んで受け入れています。例えば、多くのサプライヤーと仕事をしていますが、MFAのために彼らからたくさんの詳細なデータを提供してもらう必要があります。しかし、彼らは細かな情報を共有することに不慣れです。原材料の加工業者に加工の証拠となる重量の計測と写真を提供してもらうことが困難であったり、その他にも、テントのオーナーが今まで一度もテントに使用する鉄骨の重量を測ったことがなかったり、ケータリング業者でレシピを秘密にしている人たちがいたりというシチュエーションにも直面します。
私たちは全ての素材を堆肥化し、次のイベントの食材を育てるために使うことができるようにするために、フードコートにおいて調達における厳しい方針を設けています。その結果として、使い捨ての食器やカトラリーの全ては生分解性の素材からできているものを使う必要がありました。市場には生分解可能と謳う素材が多くありますが、実際にはそうでないものも多く存在します。そういった製品を見分けることは非常に難しいため、私たちは自分たちのウェブショップを開き、堆肥化のプロセスにおいて適切だと分かっているプロダクトを販売しました。そうすることで、サプライヤー達は製品の区別が明確になったのです。
サプライヤーや参加者などのステークホルダーとの間でサポート関係を築くためには、サステナブルな選択肢を選ぶ方法を簡単なものか、より楽しいものにしなくてはいけないというのが私のビジョンです。
今後実施していきたい施策や、
改善していかなければならない
点はありますか?
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私たちは、DGTLの基本方針を「エネルギー」、「水と衛生設備」、「食べ物」、「(以前は廃棄物と呼ばれていた)原材料」、「モビリティ」という5つのシステムにまとめました。そして、「エネルギー」、「原材料」、「水と衛生設備」の項目においては、循環サイクルを実現させています。その他の「食べ物」と「モビリティ」に関しては、循環性を定義づけることが難しいため、実現はより困難です。なので、システム内の循環における環境への影響を出来るだけ少なくすることが今年の主な目標となるでしょう。
また、ミートフリーのフードコートを2016年に導入しましたが、それでも生産した食べ物の1/3は毎年廃棄されています。これは環境に大きな影響を与えてしまう大きな問題です。そこで、食べ残しや食器、カトラリーを堆肥化することに加え、廃棄される予定だった食材を調理に使うことで、食料システム全体にフォーカスを当てています。また、開催地域の食品流通から出た余剰生産物を用いることで、食品廃棄物を使う割合を最大化させています。今年は、これらの食材で、厳選されたシェフたちが考案した完全植物由来のビーガンメニューを提供し、さらなる飛躍を遂げました。
私たちが前に進んでいくために必要な次のビジョンは、成長の限界に関連したものではなく、全ての人に豊かさをもたらす再生産的な未来のビジョンだと思っています。私たちは、いかに悪影響をもたらさないようにするかという文脈ではなく、本当に良いことを行うという文脈において自身の発展を考える必要があります。言い換えれば、私たちのプロジェクトは積極的に再生産を行い、参加者やその周りの地域経済にポジティブな影響を与えなければならないのです。
再生産的サステナビリティは、世界の見方が「機械論」的なものから「生態学」的な見方へと変わっていくタイミングに現れた新たな言説です。このビジョンは人々のテクノロジーや環境、経済や社会、政治などのシステムとの関係性に新たな概念をもたらす助けとなるでしょう。
私たちは、プロジェクトにおいて再生産的なデザインの原理を取り入れ、参加者にその素晴らしさを伝え、より良い世界をデザインするインスピレーションを与える責任があると考えています。そのために、私たちはDGTLをこの理念を世界に伝える機会だと捉え、どのようなプロジェクトになったとしても、新しい道筋を示したいと思っています。
バルセロナやイスラエルなど、
地域性の大きく異なる国での開催も
多く経験されていますが、
それぞれの国においても同様に
高い持続可能性を実現させるために
苦心したことはありますか?
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私たちはDGTL Amsterdamで培われた経験や知見を、地域ごとの技術的または経済的な実現可能性を考慮しながら、世界中で開催しているDGTLでも常に実現させようとしてきました。私たちはグローバルに通用する持続可能なプログラムを持っています。それは例えばベジタリアン料理の導入やエネルギーの有効活用、繰り返し使う容器のシステムや資源管理システムなど、環境に大きな影響を与えている要素を減らす取り組みです。しかし、その地域の技術が十分ではないために、フェスティバルを再生可能なエネルギーのみで運営することができないといった場合もあります。
それでも、チリの首都サンティアゴでは循環型のフードコートを実現し、バルセロナではフェスの使用電力の供給を太陽光発電と風力発電のみで行い、一度しか使えない素材を取り除くことに成功しました。これにより、DGTLのグローバルイベントはいくつかのサステナビリティに関する賞を受賞することができました。
今年はデジタルでの
開催となりましたが、
音楽体験の未来はどの
ようなものに
なってい
くと思いますか?
オンラインとオフラインの組み合わせは、今後より重要になっていくでしょう。
世界的な展開が可能で、アクセスが容易なバーチャルイベントはとても魅力的です。しかし、オフラインイベントは、地域やサプライヤー、アーティスト、スタッフを経済的にサポートしています。そして、活気あふれるローカルコミュニティを生み出すために、私たちはオフラインイベントを行う必要があります。そういったコミュニティを支え、主導していくような地域のアーティストや、そこで生まれる創造性、その周りの協力者たちに力を与えたいと考えています。
最初は変化に対して少しばかりの不快感を感じるかもしれません。しかし、もしそれが環境にとって良いことならば、実行する価値は必ずあります。そして、私たちが自然を大切にすることができれば、自然も私たちのことを大切にしてくれるのです。
そして、刺激的な発見や心が動かされる瞬間は、人々が音楽を介して一つになる時にこそ生まれると思っています。私たちのグローバルなブランド力と地域社会にいるゲームチェンジャーの力を掛け合わせ、さまざまなバックグラウンドを持った多くの人々にとって、魅力的なフェスティバルでありたいと願います。