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空から描かれる地球と人類の関係

The relationship between human
and the earth portrayed from the sky

The relationship between human and the earth portrayed from the sky

Tom Hegen

1991年ドイツ生まれ。アウクスブルク応用科学大学にてグラフィックデザインを学んだ後に、写真家としてキャリアを始める。
人類の活動によって地表に残された環境への影響を映し出す作品を制作し、国際的な評価を得る。2018年には初の写真集『Habitat』を出版。これまでに、Red Dot Design Award、German Design Award、International Photography Awardなど数多くの賞を受賞。

http://tomhegen.de/
Tom Hegen

Summary

隕石の衝突や地殻変動、火山の大噴火など、地層には地球が誕生してから46億年もの間に起きた様々な出来事が刻み込まれている。しかし、現代における人類の活動はこうした自然の大変革と匹敵するほどに地球環境へと深い影響を及ぼし、「アントロポセン(人新世)」と呼ばれる新しい地質年代を生み出そうとしている。ドイツを拠点に活動するトム・ヘゲンは、こうした地球に残された人類の影響を航空写真を用いて表現するフォトグラファーだ。抽象画のように美しい航空写真を通じて見える地球のもう一つの表情からは、どのような現状や視点を読み取ることができるのだろうか。

航空写真を撮るようになった
きっかけはなんですか?

写真家として活動を始めた当初は完全な構図と光を追い求めるクラシックな風景写真に取り組んでいました。しかし、こうした体裁だけを整えた写真では本当の自然を表現できないと気が付いたのです。そしてそこから、「風景写真(landscape photography)」における「風景(landscape)」という言葉に関して疑問を持つようになりました。「Land」という単語はドイツ語に由来する言葉であり、後ろの「-scape」という語は「形作る(»shaping«)」という意味を持つ「-schaffen」から派生しています。つまり、「景観を整える(landscaping)」という意味での「風景(landscape)」とは、場所の視覚的な特徴を修正する行為という意味を持っていることが分かりました。その結果として、私は風景写真を純粋で荒らされていない景色の写真ではなく、人類の影響を受けた場所の記録として捉えるようになったのです。

人類がもたらす地球への
影響を探求する航空写真

航空写真を通じて探求している
テーマを教えてください

今は「アントロポセン(人新世)」(*1)という概念に関心を持っています。この言葉は科学者が提唱したもので、現代において、人類が生態系や地質、大気の変化に影響を及ぼす最も重要な要因になっているという考え方です。「アントロポセン」に含まれる重大な変化の中には気候変動や南極オゾンホール、急激な海面上昇、あるいは河川の流路変遷や自然資源の減少などによる自然風景の変化が含まれています。私の作品では、人類による自然への介入を理解し、私たちがどう責任を果たすことができるのかという問題へ関心を向けるために「アントロポセン」の原点とそのスケールを探求しています。
その中で航空写真による風景の記録は、人類が地球へと与える影響の見取り図を作るという意味で大変魅力的な方法です。また、見慣れた景色を俯瞰という新しい視点で切り取ることによって生まれる抽象化もとても面白いと感じています。つまり、風景を抽象的で美しいものへと置き換えることで、作品を見た人の意識を喚起し、被写体に対して違う見方からの結びつきを感じてもらうことができるのです。

(*1) ノーベル賞を受賞した大気化学者パウル・クルッツェンが提唱した地質時代の区分の一つ。人類が自然環境や生態系に対して地球規模の環境変化をもたらすようになった時代と定義される。

これまで撮影した中で最も気に入っている作品 / ロケーションはありますか?

一番気に入っている作品というのはありません。写真の撮影に至るまでに膨大なエネルギーを注いでおり、全てのプロジェクトは私にとって特別なので、1つ1つの作品に対して深い結びつきを感じています。また、ロケーションに関しても難しい質問です。すべてのロケーションがそれぞれ特別な要素を持っており、異なるアプローチが必要です。ただ、THE SALT SERIES IIの撮影にはとても良い思い出があります。このプロジェクトでは古い小さな飛行機に乗って朝のうちに撮影したのですが、撮影のコンディションは完璧としか言いようがなく、カメラに映った写真を見てとても幸せな気持ちになりました。

空から見る地表のもう一つの表情

THE SALT SERIESは
どのような作品でしょうか?

海から塩を取り出すという行為は、人類が景色を作り変えるという形式の中で最も歴史が長いものであると同時に、最古の製塩方法です。その起源はヨーロッパでは古代まで遡り、およそ6000年前から開始されています。水面の色は微生物によって少し暗めの緑から鮮やかな赤まで様々に変化しますが、それに伴い塩分濃度も変化します。また、塩田は人間だけでなく、鳥や貝、微生物など多様な生物の住処でもあります。このように、塩は私たちの日常生活の一部である自然資源にも関わらず、それがどこから来て、どのように作られているのかを知る機会は滅多にありません。そこで私はとても身近なものでありながらも、その正体を驚くほど知らない日常のプロダクトにフォーカスを当てたいと思ったのです。

作品を作り続ける中で環境に対する意識に何か変化はありましたか?

もちろんです。物事がどのように繋がっているのかということに対する感性が研ぎ澄まされました。この数年間で風景を読み取る目が養われ、人類の干渉が大きいのか、あるいは極めて微小なのかを判別できるようになりました。目をしっかりと開き、世界を見ながら物事に疑問を持つことがとても重要だと考えています。そうすることで、地球のためにより積極的な行動を起こせるようになるのです。

写真は環境問題に対してどのような関わりをもつことができるのでしょうか?

個人的な意見として、進歩のためには情報が鍵になると思います。より多くの情報を持つことで、理解を深め、より責任あるアクションを起こせるようになります。そして、社会として発展させるべき情報は科学や歴史、生物学など全てのフィールドに存在します。一方で、クリエイティブに携わる人々もまた蓄積された情報に貢献することが可能です。写真家として、私は環境がどんな状態にあり、人類がどのように影響しているのかを伝えられるような視覚的な情報を作ろうとしています。また、風景自体からは距離を取ることによって、より広い文脈でテーマを表現しています。
1つの主題に対して、視覚や科学、歴史など、より多様な情報を持たせることで、さらに学びを得ることが可能になり、より良い形でそれらを身に付けることができると考えています。

持続可能な未来を描くために
写真家ができること

あなたの理想とする人間と自然の関係性はどのようなものですか?

これまでで最も成長し、消費が盛んな現代において、人類は経済や政治的な関心を優先させて地球を変化させてきました。現在、地球上には7.5億人が生活しており、21世紀の終わりには、世界人口は11億人を超えると予想されています。21世紀の最大の課題は、より多くの人を限られた場所と資源の中でどのように養うのかというものでしょう。この課題を達成するために、私たちは地球がたった1つしかないということを理解する必要があります。これこそが、私たちがまだ可能なうちに地球をリスペクトし、環境保護に努めなければいけない理由です。私たちには知識があり、テクノロジーとそれらを扱う強さを持っています。だからこそ、今すぐに始めなければいけないのです。

50年後に、これまで撮影した場所を訪れた際、そこはどのようになっていると思いますか?
あるいはどのような変化を望みますか?

私は自分が訪れた場所の評価はしません。ただ、その場所を記録し、その繊細さを美しい方法で伝えるだけです。それでも、より自然な形で人類の存在が統合された変化がもたらされて欲しいと願います。